大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)262号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点があるかどうかについて検討する。

1 成立について争いのない甲第二、第三号証によれば、本願明細書の特許請求の範囲には、前示当事者間に争いのない本願発明の要旨のとおりのこと(事実摘示第二の二参照)が記載されており、本願発明は右のとおりのことを要旨とするものと認められる。

2 成立について争いのない甲第四号証(第一引用例)によれば、第一引用例には、「被写体輝度に相応したアナログ電気信号に変換する測光回路と、該回路からの測光値に相応する電気信号をメモリー回路に転送するための転送手段とを設け、カメラのレリーズ動作に基づいて、前記転送手段による転送動作を阻止し、前記メモリー回路に記憶されたレリーズ直前の記憶値に基づいて露光量を制御するようにした露光量制御装置」が記載されており、右のような露光量制御装置が記載されているとする限度では審決の認定に誤りはなく、その点は原告も争わないところである。原告は、第一引用例記載の右装置において「メモリー回路の記憶値を測光値の変化に応じて更新する」ものとした審決の認定は誤りである旨主張するが、第一引用例のものにあつては、カメラのレリーズ動作に基づいて転送動作が阻止されるに至るまでは、メモリー回路の記憶値は測光値の変化に応じて常時変化し続けるものであり、審決もそのようなものとして第一引用例記載の装置を把握のうえ本願発明と対比しているものと認められる(審決は第一引用例のものにあつてはメモリー回路の記憶値が「所定周期ごとに更新される」としているものではなく、単に「更新する」としているものであり、その内容は「常時変化し続ける」と読み替えて理解可能である。)から、審決の認定の誤りをいう原告の右主張は意味がない。

3 原告は、第二引用例にはA―D変換回路によりA―D変換されたデイジタル値を所定周期ごとにデイジタルメモリー回路に転送するための転送手段を設けた構成は記載されておらず、これが記載されているとする審決の認定は誤りである旨主張する。

成立について争いのない甲第五号証(第二引用例)によれば、第二引用例には、V―T型A―D変換器をもつて測定量に相応したアナログ信号をマルチバイブレータにより規制されている所定周期ごとにパルス化し、前記アナログ信号の大きさに対応する該パルス数を複数の計数回路からなるカウンタで計数し、所定周期ごとに繰り返しカウンタの計数値、すなわちデイジタル値に変換するようにした構成が記載されており、審決の認定したとおり、第二引用例には、「測定量に相応したアナログ信号を所定の周期ごとに繰り返しA―D変換するA―D変換回路」が記載されているということができる。しかして、第二引用例には、右A―D変換回路によつてA―D変換されたデイジタル値、すなわち前記カウンタの計数値をデイジタルメモリー回路に転送することに係る構成としては、単にその第二図に示されたデイジタル計測の概念的な全体の構成を表すチヤートにおいて、カウンタとデイジタルメモリー回路に相当するレジスタとを接続することが示されているのみで、第二引用例の記載のみをもつては、第二引用例記載のデイジタル計測装置において、本願発明におけるように、所定のA―D変換の周期ごとに計数し終えたデイジタル値をレジスタに転送し、これを次の計数値が転送されてくるまでレジスタに記憶させておくように構成されているか否かは判然としないといわねばならない。しかしながら、成立について争いのない乙第五ないし第八号証によれば、デイジタル計測を行うに当たり、カウンタの出力をレジスタに接続するに際しては、所定のA―D変換の周期が終わるごとに計数し終えたデイジタル値のみがレジスタに転送されるようにした転送手段をカウンタとレジスタの間に介在させ、次のA―D変換の周期が終わつて新しい計数値が転送されてくるまでレジスタに直前の計数値を記憶させておくようにすることが、本願発明の特許出願当時には既に周知・慣用の技術手段であつたものと認められるのであるから、右の技術水準の下では、第二引用例に開示されたA―D変換回路とデイジタルメモリー回路を、「該A―D変換回路によりA-D変換されたデイジタル値を所定のA―D変換周期ごとにデイジタルメモリー回路に転送するための転送手段を設けた構成」として用いることは当事者にとつて自明の技術事項であつたものというべきである。してみれば、第二引用例の記載事項の認定について審決は誤つていることをいう原告の主張は、結局において理由がないことに帰する。

4 原告は、第三引用例記載のものはパルス数を計数はしてもこれを記憶保持するものでなく、第三引用例に「被写体輝度に相応したアナログ信号をパルス数に変換して、該パルス数を記憶する」ことが記載されているとした審決の認定は誤つている旨主張する。

成立について争いのない甲第六号証(第三引用例)によれば、第三引用例には、被写体輝度に相応した周波数のパルスを発生するパルス発生器を用い、該パルス発生器からのパルスを露光開始時点からカウンタで計数し、該カウンタのカウント値が所定値Xとなつた時にシヤツタを閉じて露光を終了させるようにして露光量を制御する技術が記載されているから、第三引用例には「被写体輝度に相応したアナログ信号をパルス数に変換して計数し、露出制御をデイジタル的に制御する技術」が記載されているとした限りで審決の認定になんら誤りはなく、そのようなものとして対比すれば本願発明の容易推考性の判断をする上では十分であるものと認められ、右の技術においてパルス数が記憶されるかどうかを論議することは無意味である。原告の前記主張は結局において理由がない。

5 最後に、叙上のところを踏まえて、本願発明をもつて第一ないし第三引用例の記載に基づいて容易に推考できるものとした審決の判断の当否について検討する。

第一引用例には、前記2に認定のとおりの露光量制御装置(アナログ記憶式露光量制御装置)が記載されているところ、第三引用例には同じく露光量を制御する技術として、前記4認定のとおり、これをデイジタル的に制御することが記載されているのであるから、第一引用例の露光量制御装置において、その測光値の記憶方式として、アナログ記憶手段に代えてデイジタル的に制御することを導入しようと考えることは、なんら発想において困難とされる点はない。しかして、第二引用例に関して前記3において説示したとおり、デイジタル計測の分野において、アナログ信号をA―D変換回路によつて所定の周期ごとに繰り返しA―D変換し、このようにして得られたデイジタル値を右所定の周期ごとにデイジタルメモリー回路に転送するための転送手段を設け、右メモリー回路の記憶値をA―D変換のたびごとに更新していくことが知られていたのであるから、第一引用例記載の露光量制御装置をデイジタル的に制御するものに転じようとする際、デイジタル計測における右技術を適用することとして、第一引用例のもののようにアナログ信号を常時メモリー回路に転送することに代えて、A―D変換回路によつてA―D変換されたデイジタル値を変換周期ごとに繰り返しメモリー回路に転送するようにして、転送のたびにメモリー回路の記憶値を更新するように構成することに格別の困難はないものと認められる。右のように構成した場合においては、更新されつつ記憶されている最新の記憶値に基づいて露光量制御を行うことは当然の要請というべく、第一引用例におけるものと同様に、カメラのレリーズ動作に基づいて転送手段による転送動作を阻止するようにして、レリーズ直前にメモリー回路に記憶された記憶値に基づいて露光量を制御するようにすることは、単なる設計事項としてなんらの発明力も要しない事項ということができる。

してみれば、本願発明のように露光量制御装置を構成することは、第一ないし第三引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることができるから、これと同旨の審決の判断は相当であつて、これを誤りであるとすることはできない。

三 以上のとおりであるから、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので失当としてこれを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

被写体輝度に相応したアナログ電気信号を所定の周期ごとに繰り返しアナログ―デイジタル変換するアナログ―デイジタル変換回路と、該アナログ―デイジタル変換回路によりアナログ―デイジタル変換されたデイジタル値を前記周期ごとにデイジタルメモリー回路に転送するための転送手段とを設け、前記メモリー回路の記憶値をアナログ―デイジタル変換されるたびごとに更新するとともに、カメラのレリーズ動作に基づいて、前記転送手段による転送動作を阻止し、レリーズ直前に前記メモリー回路に記憶された記憶値に基づいて露光量を制御することを特徴とする露光量制御装置。

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